>氷室 冴子さん(ひむろ・さえこ、本名碓井小恵子=うすい・さえこ=作家)6日午前9時、肺がんのため東京都の病院で死去、51歳。
・・・ということのようです。すごくショック。
いまさら言うまでもないでしょうけど、1980年代コバルト文庫の看板で、漫画化、舞台化、映画化された作品もかなりあります。
上の記事にもありますけど、世間的な意味での代表作は『なんて素敵にジャパネスク』シリーズ、それに『海が聞こえる』(掲載誌はアニメージュ)、『ざ・ちぇんじ!』・・・と言ったあたりでしょうし、まったく異論はないのですが、ワタクシの好きな作品、と言いますと、なんといっても『クララ白書』シリーズ。左のプロフィール欄「好きなラノベ」の中にも入れてます。
『マリみて』シリーズの元祖としても知られてますし、『マリアさまがみてる』シリーズの元祖的存在で、実際初めてマリみとを呼んだとき、東京を舞台の、女子高生による、洗練された『クララ白書』という印象でした。(クララ白書は札幌が舞台で、主人公たちは中学生)
少女小説の系譜、あるいは少女同士の心の通い合いとしては、元祖としてあまりにも有名な吉屋信子という存在がありますので、百合少女小説の元祖、とまで言ってしまうのは言いすぎだと思いますが、吉屋信子が広い意味で少女小説であり、その後継者達の多くは、今で言う百合小説の方へはそれほど色濃く傾斜していなかった、という点で、今日的な意味では断絶していましたし、この『クララ白書』がまさに中興の書、といて立ち現れた、というくらいは言ってもいいんじゃないかと思います。
札幌の私立女子中学、その寄宿舎を舞台にした、ほとんど女子学生だけで展開される物語。
あ、もちろん、男性も出てはくるのですが・・・。
メイン少女達のささやかな冒険と、学園生活、心の交流を描いたもので、性的な意味での百合描写があるわけでもありませんが、その心情の広がり方、深まり方は、わかる人にはわかるんじゃないかなぁ、と思います。
簡単にシノプシスだけを書いてしまうと、寄宿舎の伝統行事、深夜の食料庫破りを課される主人公ら3人娘の、冒険とかつながりとか、あこがれとかを、生き生きとした文体で描き出してくれているものです。
舞台は札幌で、モデル校は藤女子、とかって言われてましたが、それ以外にも、札幌の町並みの中での点描が実に良い持ち味を出してまして、たとえば、東高、というのがでてきます。
これ札幌出身の友人に聞くと、札幌東高校の状態をけっこううまく描いている、とのことです。
ちなみに、北海道で一番の伝統高と言うと、札幌南高校らしいです。札幌は旅行でしか行ってないので詳しいことは知りませんが。
それでも、地下街の様子とかは、簡潔で、しかも眼前にあるかのように生き生きと描写されてますし、そういう面でも面白かったものでした。
寄宿舎内での上下関係、憧れ、敵対、秘密の冒険・・・そういったものが陰湿にならずにテンポよく展開されていくさまは、読んでて時を忘れる、というよりも、少しでも長くこの世界にとどまっていたい、と思わせるものでした。
下にアマゾンのリンクを張っておきますが、私が読んだのは原田治氏の最初の絵の方でした。
今取り出してみると、定価260円、となってます。(笑)
『クララ白書』は、パート2が描かれた後、高校の寄宿舎・アグネス舎を舞台にした『アグネス白書』というのも書かれまして、こちらの方が少し重みがでてきてるかな。
初版刊行が昭和55年と、ほとんど30年近い昔の作品ですので、さすがに粗野なところとか、今の時流にあわないところもいくつかありますけど、少女達の行動や感性には、時代を超える息吹があるんじゃないかなぁ、と思っていたりするところです。
クララ白書。(Amazon)
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90年代後半くらいからは目立った仕事はされてなかったようでしたけど、まだ50代に入ったところ、という程度でしたので、いかにも残念です。合掌。