ただ、こちらは今後もたぶん書き換えないだろうなぁ、と思いますので、現在時点での簡単な解説というか、選択理由というか、そのあたりを書き残しておきます。
いつものアニメ視聴感想記録とはまったく違いますので、【続きを読む】に格納しておきます。
まずメルヘン文学について、簡単な前置き。
日本では「メルヘン」と表記されることが多く、童話、なんて訳語がついたりもしますが、どれも少ししっくりきませんので、文学作品として取り上げるということもあって、以下「メルヒェン」と表記します。
原音により近づけるのなら「メールヒェン」もしくは「メーアヒェン」とした方がいいのかも知れませんが。。。
まずメルヒェンというのは、大きくわけて2大別されます。
民間メルヒェンと、芸術メルヒェン。
民間メルヒェンというのは、作者が伝わらず、民衆の間で伝わってもので、ペローとかグリムとかが収集したものですね。
収集されたものにどこまで作者の手が入っているか、で、さらに分類がされることもありますが、ここでは取り上げません。
もう一つが芸術メルヒェン、創作メルヒェンとも言われるもので、アンデルセン、ティーク、ノヴァーリス、エンデ、なんかが該当します。(アンデルセンは民間メルヒェンも残してますが)
芸術メルヒェンは、成瀬無極氏の分類によると、さらに「観念童話」「運命童話」「純正童話」の3つに分類され、ゲーテの『メルヒェン』なんかは、今日の日本の読者ですと、ちょっと「メルヘン」には見えないと思いますが、これなんか典型的な「観念童話」のスタイルですね。
では、左に上げたものの、きわめて簡単かつ適当な解説。(^_^;
◇1.星のひとみ(トペリウス)
◇2.氷姫(アンデルセン)
◇3.黄金宝壷(ホフマン)
◇4.金髪のエックベルト(ティーク)
◇5.モモ(エンデ)
◇1.星のひとみ(トペリウス)
昔は、ティークやホフマンの暗いメルヒェンの方が好きでしたけど、今だとこれを第一に推してます。
[雪の夜、とある百姓夫婦に拾われた、ラップ人の赤ちゃんは、そのふしぎな目の光から「星のひとみ」とよばれるようになる。だがこの少女は成長するにつれて、ふしぎなことを言い出す。おかみさんが考えていることを言い当てたり、旅人が盗もうとしていた金の指輪を言い当てたり、穴倉の底からみんなのしていることを歌に歌ったり。迷信深いおかみさんたちは、だんだんこの女の子が気味悪くなってきて、ついに・・・。]
凍えるような冬の村で繰り広げられる、不思議な少女の物語。
19世紀後半に書かれた本作は、フィンランドの作家、サカリアス・トペリウスによって書かれたもので、まだサイキックSFが確立する前の作品です。
トペリウスはフィンランド人ですが、著述に使われたのはスウェーデン語で、このあたり、20世紀のフィンランド・メルヒェン作家で、一連のムーミンものの作者、トーベ・ヤンソンと共通していますね。
もちろん本作は、現象としてサイキックっぽい描写はありますが、超能力ものというのではなく、清らかで純粋な女の子の瞳に宿った不思議な力と、それを巡るちょっぴり悲しいお話に仕上がっていて、トペリウスが「フィンランドのアンデルセン」といわれているのも、うなずけるところです。
この神秘的な、それでいて叙情的な美しさは、まさに「創作メルヒェン」が「芸術メルヒェン」でもあったことを思い起こさせてくれます。
Amazonのアフィリエイトでも張ろうかと思ったんですが、Amazonでは品切れみたいですので、訳書の情報だけ。
岩波少年文庫で読めると思います。
◇2.氷姫(アンデルセン)
アンデルセンの創作メルヒェンは、多くが「純正童話」の部類に入ると思うのですが、本作はかなり「運命童話」に近い、暗い色彩をもっています。
[スイスの山国で暮らす少年、ルーディは健やかに成長していく。氷河のさけめ、玻璃宮に住まう氷姫が、ルーディの若々しく美しい姿を目に止め、なんとか自分のものにしようと思うがうまくいかない。やがて成長したルーディは、水車小屋の娘・バーディと恋仲になり、婚約するのだが・・・。]
アンデルセンの創作メルヒェンには、ときおりこういう暗い自然の夜の側面が描かれることがあります。
なお、本作は大昔、アニメ『アンデルセン童話』の中の1エピソードとしても紹介されていました。
◇3.黄金宝壷(ホフマン)
近代幻想文学の旗手、ETAホフマンによる、珠玉メルヒェン。
[貧しい大学生アンセルムスが、2つの世界、平凡な人間世界と、精霊の世界の間を行き来し、翻弄される。教頭パウルマンの美しく健気な娘ヴェロニカは人間世界を代表し、王室図書頭リントホルストの娘セルペンチーナが精霊世界を代表する。セルペンチーナの本性は緑の蛇で、リントホルストはサラマンダー、母は炎の百合である。アンセルムスは、セルペンチーナと結ばれ、ヴェロニカは顧問官の妻となる。]
ホフマンを語るときには、その幻想小説の方を語る方がたいそう魅力的なのですが、メルヒェンと題された作品もいくつか残されています。
知名度という点では、チャイコフスキーがバレエ音楽をつけた『くるみ割り人形とねずみの王様』の方が高いでしょうけど、めくるめく幻想の美しさ、という点で、本作は白眉だと思います。
もっとも、今、好きなメルヒェンを選ぶとすると、ホフマンからは本作を選ぶか『ブラムビラ姫』を選ぶか、少し迷ってしまうところではありますが。
◇4.金髪のエックベルト(ティーク)
ティークのメルヒェン、ことにその前半生に書かれたロマン派時代の作品には、暗闇がおそるべき深遠を見せて笑っている、漆黒の魔法メルヒェンが多いのですが、本作はその中においても出色の傑作。
[森の中に年老いた妻ベルタと暮らす、金髪の老騎士エックベルト。だがこの夫婦の間には恐るべき秘密があり、エックベルト自身もそれを忘れていた。]
アラスジはちょっと書きにくいので、この程度まで。
ティークの暗黒メルヒェンとしては『ルーネンベルク』という、これまた暗く黒い魔法メルヒェンがあり、こちらも名作です。
◇5.モモ(エンデ)
20世紀の名作から『モモ』。
エンデの代表作というと、今では『終わりのない物語(ネバーエンディングストーリー)』の方が有名になってしまいましたけど、個人的な好みで言うと、断然こちら。
ベンマンの『石と笛』、プロイスラーの『クラバート』『小さな魔女』ともとに、20世紀を代表する芸術メルヒェンと言っていいかと思います。
なお、エンデは日本で昔アニメになった『ジムボタン』シリーズの原作者でもあります。
アニメ感想ブログなんで、メルヒェンについて語ることはあまりないだろうとは思いますが、この芸術メルヒェン、けっこう好きなジャンルなんで、少しだけ趣味の一端として、書いておきました。